実はこの工房、全部手作りなんですよ。
日本に戻ってきてから版画のバイトを始めたんですよね。
そうです。フランスで知り合った友人が版画工房に入り、僕もアルバイトという形で誘われて入りました。そうしているうちに文化庁の在外研修制度の摺り師部門に応募して、海外で経験を積もうと思い始めました。フランスでは商業的な複製が多いのですが、アメリカではアート的なものも多いので、僕にはアメリカの方が合っているなと考え、いろいろな後押しもありニューヨークで研修をすることになりました。
初めは助手的な立場で刷ることはできませんでしたが、だんだんと刷りの方も任せてもらえるようになりました。アメリカは芸術的アートとコマーシャルアートの区別がはっきりしていて、僕の行った工房でもアーティストの作品を作っていました。日本ではあまり区別がないことが残念ですね。アートとコマーシャルアートではプロ意識が違うことも知りました。芸術品を作っているという姿勢が最も勉強になりました。その後、日本に帰ってきて工房を作りました。
はじめは富山県の額縁屋さんの出資で江戸川区の葛西に工房を作り、僕が工房長となって仕事をしていました。そこで4年くらい働きましたが、バブル崩壊の影響で出ることになり、ここに移ってきました。引っ越したのが1991年9月15日だったので工房の名前にも“915”が入っています。実はこの工房、手作りなんですよ(笑)
本当に何もなかったので全部自分たちでやりました。友人に手伝ってもらって壁をしっかりしたものに変えたり、棚を取り付けたり。窓も業者の方に頼んで作ってもらいました。いろいろな技術は必要でしたが、とても楽しかったですよ!そしてまたこの工房で版画の仕事を始めることができました。
プロなので、常に気を遣って仕事をしています
うーん・・・いろいろあるんですけどね(笑)たとえば、あそこに140枚くらい積みあがっている紙ですが、16版あって36色刷りなんです。それを1つ1つコツコツ刷っていかなきゃいけないんです!ほんとうに忍耐、我慢、忍耐、我慢の繰り返し(笑)少しでもズレちゃったら、ここまでの作業が水の泡になっちゃうからね。全部終わるのに1カ月ちょいくらいかかるかなぁ
1つの絵を仕上げるにも16版 !? 140枚刷ろうと思ったらインクを付けて刷ってを2240回...。考えただけで気が遠くなりそうです・・・特に気を遣っていることとかあるんですか?
特にというよりも、ずっと気を遣っていないとです! プロでやっているので、1枚1枚ずっと気を遣いながら仕事をしていますよ。大変ですけど自分に合っているかどうか、今もわかりません。