海部さんのとある一日
■ 05:30 起床 メールチェック後に朝ごはん作りなど家事
■ 06:30 朝ごはん
■ 07:20 娘とともに出勤 娘は保育園へ
■ 08:40 大学着 授業準備
■ 09:20 授業(生物学) ~10:15
■ 11:00 授業(一年生のゼミ「科学と疑似科学の間」) ~12:30
■ 12:30 昼休み(生協で購入したサンドイッチなど食べながらメールチェック)
■ 13:20 授業(二年生のゼミ「大栗川の変遷」) ~15:50
■ 14:50 研究に関わるデスクワーク(データ整理や各種申請書・報告書の作成、関係者との連絡調整など)
■ 18:00 大学を出る
■ 19:30 保育園にお迎え その後晩ごはん作り
■ 20:15 妻帰宅 晩ごはん
■ 21:00 娘とお風呂
■ 22:00 就寝
きっかけは “タコ”
海部先生、本日はお休みにも関わらずキモエのインタビューをお受けくださり、ありがとうございます。それではどうぞよろしくお願いします。
さっそくですが、ウナギを研究しようと思ったきっかけを教えてください!
「ウナギを研究したい」と思って始めたわけではないんです。大学は社会学部、ウナギとは全く関係のない勉強をしていましたし、卒業後も塾の講師など今でいうフリーターをしていました。そんな生活を続けていくうち、このまま一生を終えるのはなぁ…と思い始め、高校の生物の先生になろうと考え始めました。
高校の先生になるために必要な単位は、大学在学中にある程度取得していたので、いくつかの単位を追加で取得すれば先生になれる、ということを知り、当時の東京水産大学(現、東京海洋大学)の科目等履修生(*1)になりました。そのうち、生活指導や受験がない大学生に教えるのほうが良いのではないかと、思い始めました。大学で教えるには博士号が必要なので大学院に進学することにしました。
アルバイトすることで方向性が固まってきたりもするんですね。
(*1):科目等履修生(かもくとう りしゅうせい)とは、各学校の定めるところにより、当該学校の学生・生徒等以外の者で1または複数の授業科目を履修する者(Wikipediaより転載)
生き物の研究は何をやっても面白い
大学生に教えるには博士号が必要だったので、大学に通うことにしました。東京水産大学で受けた無脊椎動物についての授業が面白く、中でもタコを研究したいと思い、修士で研究室に入ることにしました。そこではタコの聴覚の研究をしていました。とても面白かったですよ。
博士課程では、活発に研究をしている所を探しました。そこで見つけたのがウナギの研究室です。元の研究室は、研究があまり盛んではなかったのでね。そこではウナギ以外の動物も扱っていましたし、かつて聴覚を扱ったこともあったので、事前に先生と相談して、タコの聴覚の研究をしても良いということになり、決めました。が…入った後で「やっぱりタコはないだろう」と言われてしまい、ウナギに変えることになったんです。めちゃくちゃに聞こえるかもしれませんが、その研究室が最も得意とする分野を扱うことで、自分も成長できると考え、受け入れました。
タコからウナギの急な変更でしたが、タコをやりたいという思いはずっとあったんですか?
博士課程の間も早く終わらせてタコをやりたいと思っていました。でも、研究していくとだんだん面白くなってきて、ウナギを研究するようになりました。
生き物の研究というのは、何をやっても面白いものだと思うんです。今考えると、僕には資源の減少や密漁、密売といった社会問題を抱えているウナギは合っていたんだと思います。
ウナギはすごい下駄を履いている
ウナギと人間とのかかわりを具体的に教えてください。
人間はウナギを食べますよね。日本ではウナギにとても興味を持っていますよね。例えば何を食べているのか、食性を調べただけでも、ウナギの場合は新聞に載りますが、タコでは載りません。ウナギはすごい下駄を履いているんです。
ウナギを研究していると、こうしてテレビや新聞などの方々が取材に来ます。でも僕の研究の中ではウナギよりタコについて書いた論文の方が、世界の中では多く読まれているんですよ。その反面、僕が書いたウナギの話は、国外ですとあまり多くの人が読んでいるとは言えません。
自然から人間が受ける恩恵を最大化する
僕の中ではそれが「保全生態学」
海部さんが研究しているのは、どんなことなんですか?
僕は保全生態学を専門としています。僕の中での保全生態学の解釈は「自然から人間が受ける恩恵を最大化する学問」だということです。その恩恵というのはお金に換算できる価値も含みますが、自然を見ていいなぁと思ったり、絵に描いたりなども含めた恩恵のことを指します。
私たちの身近なところにも、保全生態学の解釈がたくさんあるんですね。
そう。そしてもう1つ、開発も経済的な恩恵を目指しているわけですが、搾取的な開発と保全生態学の目標と少し違うのは、タイムスパンです。たとえば、自然から得られる経済的な利益を最大化すると考えるときに、3年で考えるか100年で考えるかで行動は全く異なってくる。
保全生態学は長いスケールで考えます。100年単位で考えたとき、自然というのは守っていく対象になるんです。守っていればそこから新たな価値がどんどん生まれてきます。3年で考えると自然は守らなくていいんです。全部搾取し尽くしてしまった方が、3年間で得られる経済的な利益は大きくなるからです。短いタイムスパンで考えるのであれば保全は必要ない。
このように、どれくらいの時間枠で考えるのかで行動は大きく変わります。保全生態学は自然を守ることが目的なのではなく、最終的にどう人間のためになるのかを考える学問だと思っています。
人間も含めた全体システムとして考える、目的をもった学問
どのように人間のためになるのか、それが保全生態学なんですね。
似ているけれど違うのが生物愛護の考え方です。愛護というのは倫理学に立脚しており、生命1つ1つを大切に考えます。対して保全生態学は生物学と経済学に立脚した、人間の幸福を最大化するための学問です。人間も含めた生態系全体がシステムとしてうまく回るかどうかを考えるんです。愛護の考え方はシステム全体よりも、1つ1つの生命に注目します。ゆえにこの2つは、時と場合によっては相容れないこともあります。
僕は保全生態学という学問の中で対象をウナギに置いています。ウナギを中心に置いて、ウナギをどう持続的に活用できるのか、ウナギを通じてどう自然環境をもう一度再生することができるのか、人間とどううまく付き合うことができるのかを考えています。保全生態学は目的をもった学問なんです。